「ネットリテラシー講座」ご担当者インタビュー

姫路市教育委員会 様

双方向型のネットリテラシー授業が実現する
新しい学びの可能性

この記事のポイント

  • 姫路市教育委員会は2026年7月、約420名の中学生を対象にメタバースを活用したネットリテラシー講座を実施
  • 生徒は授業を受けるだけでなく、自ら発信しながら学ぶ双方向型授業を実現
  • 実際のやり取りを通じて、ネット上の言動が他者へ与える影響を体感的に学習
  • 姫路市教育委員会は、メタバース(魔法スクール姫路城)を活用した学びを発展させる可能性も視野に入れている

中学生の大多数がスマートフォンを所有し利用するなか、インターネットを通じたトラブルや犯罪に巻き込まれるケースが増加しています。リスクを懸念して「危険だから使うな」といった対応ではなく、将来のICT活用能力を高める観点からも「正しく使いこなす」ためのリテラシー教育の重要性が高まっています。

そうしたなか、姫路市教育委員会は2026年7月、J:COMと連携してメタバース空間を活用した「ネットフレンドリー講座」を姫路市立夢前中学校の全校生徒約420名を対象に実施しました。学校全体が参加する大規模な取り組みで、生徒はネットリテラシーに関する講義を受けるだけでなく、メタバース上で自ら発信しながら学びました。こうした双方向型の授業が実現した背景や、生徒の反応、今後の展望について、姫路市教育委員会 学校指導課 DX・教育デザイン係の飯田係長と加堂指導主事に伺いました。

左:加堂様 右:飯田様

左:加堂様  右:飯田様

取り組みの背景

―最初に、教育委員会でのお二人の役割を教えてください。

加堂指導主事(以下「加堂」):いくつかの業務を担当しています。1つは姫路市の子どもたちのメタバースを推進する役割です。姫路市には島もあり、山もあるなど多様な環境がありますので、地域によっては塾に通いづらいなどといったこともあります。他部署とも連携しながら、地域環境に左右されず、すべての子どもたちが等しく学習機会を得られる環境づくりと、保護者へのサポートもできるように取り組んでいます。
ほかには、全国学力学習状況調査の結果分析ですとか、小中一貫教育やコミュニティスクールの担当もしています。

飯田係長(以下「飯田」):私が係長を務める部署の名前が「DX・教育デザイン係」となっています。DXを前に持ってきているのは、いま教育現場に必要なのはDX=デジタルトランスフォーメーションというメッセージを込めています。そのメッセージを教育委員会、学校にしっかりと伝えて変革につなげていくことに日々取り組んでいます。
加えて、教育デザインにも取り組んでいます。幼稚園、小学校から高校まで、さまざまなところを繋いでDXとデザインでより良い教育環境を実現しようと考えています。
メタバースを例にすると、不登校への対応としてメタバースを実施したいから不登校を担当している部署が対応する、ということになりがちです。私たちは教育デザインという大きな枠で考えてメタバースを作りあげようとしています。デジタル戦略室という市長部局とも連携しながら、家庭教育との連携も視野に入れて取り組んでいます。このようなデザイン思考で繋ぐ役割をおこなっている係というのは珍しいのではないかと思います。

―特定の課題への対応としてではなく、全体設計の視点でさまざまな施策に取り組まれているということですね。そうしたなかで、中学生のネットリテラシー教育にメタバースを活用しようと考えられた背景を教えてください。

飯田:「学びのテーマパーク」という元々のコンセプトがあります。メタバースを活用し、インターネット上で学習やクイズを通じてポイントを獲得したりとか、楽しく学べるといいねという構想でスタートしました。始めてみると、公園に子どもたちが集まってなんだか怪しい行動しているな、というような状況がメタバース上でも見られるようになりました。一般的なテーマパークにはルールがあり、ルールを理解して参加しますが、ネット空間上のテーマパークではそうではないなという状況がみえてきたので、情報モラルの理解も大切だということでコンテンツを用意しました。

加堂:子どもたちには学習だけでなく友達とも繋がりたいというニーズもあります。そうなると衝撃的で不適切な発言をしてしまうといった情報モラルが問われるような状況もおこります。各学校でも取り組んでいますが、姫路市としても取り組む必要があると考えて、J:COMに声をかけてリテラシー教育に取り組みました。

メタバースを活用した双方向型授業

―メタバース上でのリテラシー講座は中学生が積極的に参加している様子が印象的でした。全校生徒が一斉に受講するのは思い切った取り組みだと思いますが、これは意図したものでしょうか。

加堂:今までは多くても100~200名弱といった規模でしたので、400名以上の規模は初めてでした。準備の過程では、学校長の理解はスムーズに得られましたが、生徒全員が同時アクセスするような機会はなかなかないので、これを実現するための通信インフラの準備は大変でした。事前に同時アクセスのテストをしたりといった環境整備には時間をかけました。

「J:COMネットフレンドリー講座」とは

兵庫県姫路市が構築したメタバース空間を活用し、ネットリテラシーを学ぶために実施した講座です。姫路市立夢前中学校の全校生徒約420人が参加し、チャットで気づきを共有したり、アバターを移動させて自分の意見を表明したりしながら、スマートフォンやインターネットの便利さと、SNSトラブルやネット詐欺など情報モラルの課題について学びました。

メタバースを活用したネットリテラシー講座の授業風景
メタバースを活用したネットリテラシー講座の授業風景
―授業に参加している生徒の様子で印象に残っていることはありますか。

飯田:授業後の感想のなかに「自分と同じ中学生の子が不用意な書き込みをしているのが嫌だった」というコメントがありました。私は匿名で一斉に書き込みができてしまうという初めての授業の様子をハラハラしながら見守っていたのですが、あぁそういう風に思ってくれていたのか、と。

加堂:生徒は普段からメタバースやチャットなどを使っている訳ではなく、いい体験機会になったと思います。さまざまな行動をする生徒がいるであろうことは想定内ではありましたが、420人もいるとすさまじいパワーになるなと感じました。

飯田:授業の様子は姫路市の職員にも見てもらったのですが、生徒たちのリアルなやり取りは「こんなものだよね」という受け止めで「けしからん」というものではありませんでした。大人になってからの視点ではなく、自分が中学生の頃を思い起こすとこうなるよねとか、全ての生徒が一斉に適切な発言しかしないことは現実ではありえない、それが可視化できたことから子供も教師も大人も学ぶことができるなどと感じたのだと思います。

姫路市立夢前中学校でのネットリテラシー授業の様子

姫路市立夢前中学校でのネットリテラシー授業の様子

―授業を受けた生徒のなかでポジティブな行動の変化はありましたか。

飯田:一般のネットの書き込みはどこの誰が書き込んだものか分かりませんが、授業を通じて同じ中学生が書き込んだものを目の当たりにしたことで、遠い世界のことではなく自分ごととなり、これは気を付けないといけないという理解につながっているように感じています。

―授業を実施した中学校の関係者の反応はいかがでしたか。

加堂:すごく良かった、もっと活用していくためのポジティブなきっかけになったと捉えてもらえています。

―取り組みを通じて気づいた課題や、今後の改善点などあれば教えてください。

加堂:生徒がメタバース空間でチャットをしたり意見を示したりといった行動による圧倒的なアウトプットの量があり、それに触れるだけでモラルについて色々と感じたり考える時間になりました。一方で、400人を超える人数は講師がきめ細かに対応できるキャパシティを超えた面はあるのかなとも思います。メタバース空間で授業をする際に適正な人数規模は考えていきます。
また、今回は学校側の窓口になっていただいた先生をはじめ協力的に対応していただきましたが、取り組みへの理解が進んでより多くの先生が前向きに関わってくれるようになると、より効果が得られると思います。

今後の展望

―今後の方向性をお伺いします。

加堂:具体的なプランは今後検討していきます。例えば小学生に広げるなら小学生に適したコンテンツなどの環境整備が必要になります。また、メタバースなら移動をせずとも小学生と中学生が一緒に学べるなど新たな可能性を感じています。

飯田:子どものSNS利用に関する法整備が世界各国で進んでいます。学校でできることが限られているなかで家庭教育ともかかわるメタバースを活用することは大きな可能性を持っていると思っています。

―リテラシー教育を通じて子どもたちに身につけて欲しいのはどういった点でしょうか。

飯田:一番意識しているのは、私たちがボトルネックにならないようにしよう、ということです。子どもたちに多くの機会を提供できるようにしたいと思います。
子どもたちにはアクセルとブレーキを備えてほしいということですね。イヤな書き込みがあったときにすぐに反応するのではなく、一歩立ち止まって対応できるかということです。色々と経験するなかでそういう能力を身につけてほしいと思います。

加堂:子どもたち自身が自分を守る能力を身につけてほしいです。今後、今まで接点のなかったさまざまな世界とつながっていくなかで、トラブルにならないように立ち止まれることが大事だと思います。

―今後、取り組んでみたいテーマはありますか。

飯田:ウェルビーイング指標を見ていこうと考えています。子どもたちが幸せだなと思うところに向かっていければいいなと思います。そのために学校の今の授業だけではワクワクが足りない部分もあるのであれば、メタバースをはじめデジタルのチカラでデザインできればいいですね。

加堂:いまの子どもたちは常にICT機器と接しているので、その活用能力も身につけることが大事になります。活用するための攻めの部分と、モラルといった守りの部分と、同時並行で進めていきたいです。

―ありがとうございました。授業の様子はJ:COMのJ:COMチャンネルでもご紹介しています(公開期間:2026年12月末まで)

(参考)中学生のネットリテラシー教育に関する国の動向

文部科学省: 学習指導要領では、情報活用能力(情報モラルを含む)を言語能力等と並ぶ「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けています。
中学校では特に、SNS利用時の責任、個人情報保護、フェイクニュース対策、著作権、誹謗中傷防止、生成AIの適切な利用などが重要テーマとなっています。(リンク)

総務省:毎年「インターネットトラブル事例集」を作成し、SNSトラブル、闇バイト、オンラインゲーム、誹謗中傷、ディープフェイク、オンラインカジノなど最新事例を教材化しています。(リンク)
また「ICT活用のためのリテラシー向上ロードマップ」を策定し、青少年の情報発信能力や判断力向上を推進しています。

インタビュアー

島田 祐太郎

JCOM株式会社
島田 祐太郎

J:COMはスマホ教室をはじめ、各地域での授業、講演、教員への研修などの教育支援も行っています。そのなかでも今回実施したメタバースを活用したネットリテラシー講座は新しい取り組みで、各地の教育委員会からも高い関心をいただいています。
J:COMは地域とともに歩む企業として、今後も小中学生の情報リテラシーの向上に貢献する取り組みをご提案していきます。

※記載の内容は取材時(2026年8月)の情報です。