導入事例インタビュー

熊本県様

熊本県の交通渋滞対策の取り組み

熊本県は以前から、交通手段に占める自動車利用の割合が高い県でした。
そのような中、2021年10月に台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)が県内への進出を発表して以降、相次ぐ半導体関連企業の集積などにより、通勤や物流による交通量が急増しています。

こうした状況を受け、県は知事をトップとする熊本県渋滞解消推進本部を設置して、部局を横断した取り組みを進めています。渋滞解消に向けた取り組みを担当されている中島 知子さま(熊本県 企画振興部 交通政策・統計局 交通政策課 課長補佐)と山本 貴大さま(熊本県 企画振興部 交通政策・統計局 交通政策課 都市交通・渋滞対策班 主事)のお二人にお話を伺いました。

左:中島 知子さま 右:山本 貴大さま

左:中島 知子さま 右:山本 貴大さま

―渋滞対策が部署名に入っているのは、かなりユニークな位置づけと感じます。対策に力を入れることになった経緯を教えていただけますか。

2024年に木村知事が就任し、熊本都市圏の交通渋滞対策・インフラ整備を、地下水対策などと並ぶ重要な取り組みとし組織横断での取り組みを一層強化するため、熊本県渋滞解消推進本部を設置しています。知事をトップに部長級が参加するだけでなく、熊本県警にも参加してもらって取り組みの連携を図っています。

―交通渋滞の解消に向け、どのような取り組みを推進されたのでしょうか。

ハード対策とソフト対策を両輪として、様々な取り組みをおこなっています。道路整備や信号制御の最適化に加え、朝夕の交通渋滞のピークにどう対策するかという観点では、時差出勤の推進や公共交通機関の利用促進などが挙げられます。

例として、時差出勤を推進するために、県内の民間の事業所に呼び掛けて、渋滞対策に積極的に取り組む事業所を登録する「熊本県渋滞対策パートナー登録制度」を創設しました。この制度は、時差出勤による交通量の抑制などのソフト対策について官民が一体となった取り組みの拡大を促すことを目的としています。登録した場合の金銭的なメリットなどが無い中でも、制度の趣旨をご理解いただき、2025年度に275もの事業所にご協力をいただいています。

2024年度は県と熊本市の職員が中心となり、4千名規模で時差出勤に取り組みました。2025年度はパートナー登録事業者にも協力いただき、「1万人のオフピーク通勤」として官民連携で取り組みました。

「1万人のオフピーク通勤」プロモーションツール

「1万人のオフピーク通勤」プロモーションツール

―施策を推進するうえで、意識されているのはどういった点でしょうか。

知事や副知事からは、県が渋滞対策をやっているというだけで終わるのではなく、民間の事業所の方々にも協力していただく訳だから、協力の結果としての効果を示すことが大事だという話があり、その通りだと思います。どういった取り組みをおこなうのか、取り組みの結果どういう成果だったのかをきちんとお伝えすることが県民の皆さまの理解につながり、継続して協力も得られることにもつながりますし、巻き込む力を高めるためにも、意識して取り組んでいます。

朝の通勤時間帯の様子(熊本市内・2026年4月撮影)

朝の通勤時間帯の様子(熊本市内・2026年4月撮影)

―J:COMは交通量の分析をおこなうためのご支援を担当しました。自動車の走行データを基にした取り組みは初めてのことと伺っています。今回、走行データを活用した交通量分析を実施しようと考えた背景をお聞かせください。

交通量の分析は従来から色々な手法で取り組んでいました。2024年度は、一定の時間内に通行する車の台数の増減に注目した調査をおこなっていましたが、車の数が減ったことが渋滞の解消につながったかというと、そうともいえなくて、渋滞で止まってしまって通行できる車の数が減っていることもあります。2024年度の取り組みを通じてそうした状況が見えてきましたので、2025年度は数だけでなく、速度はどうだったのかといった複数のパラメータに着目して分析したいという目論見がありました。

―実際に走行する車から収集したデータを用いた分析結果をご覧になって、どのように感じましたか。

自分たち自身ですべての地点を見たわけではないので、どれだけの効果があったのかが数字で見えたのは率直に驚いた部分はあります。渋滞が良くなったか悪くなったかは感覚的な捉え方になりがちですが、「熊本県渋滞対策パートナー登録制度」に登録していただいた事業者に向かう道路の混雑が改善されているなど、取り組みの効果が数字で実感できたのは大きいと思います。

調査をおこなった主要な88地点の分析データは県のホームページでも公開しています。

「1万人オフピーク通勤」データ分析結果例(熊本県ホームページより)

「1万人オフピーク通勤」データ分析結果例(熊本県ホームページより)

―J:COMが作成した分析レポートをご覧になっての気づきなどはありましたか。

特に渋滞対策の効果が表れていない調査地点の考察を見ると、そもそも交差点の構造などにより、車が減っても一定の右折車が常にいて効果が出づらいなどが分かってきました。

時差出勤だけでなく、信号の制御など複数の施策の組み合わせで効果が高まります。関連部署もデータに興味を持ってくれていますので、共有して施策の参考にしてもらいたいと考えています。

通常、分析レポートはデータをもとにしてデータだけから考察を進めることが多いと思うのですが、実際に現地を知っているから分かる考察が入っているのは有益だったと思います。

分析レポートは県のホームページで公開できるように準備を進めています。

―市民の方からは渋滞改善の効果に関してのご意見などは入っていますか。

「熊本県渋滞対策パートナー登録制度」の従業員の方へのアンケートの結果では一定の効果があったという体感を持たれている方もいらっしゃいますし、変わらないという方もいらっしゃる状況です。効果を感じている県の職員もいますね。

―今後、県の渋滞対策はどのようなポイントに注力される予定でしょうか。

時差出勤の取り組みを推進し、これが自然な形で定着するようになるといいなと考えています。そのうえで、必要に応じてトラフィック分析なども組み合わせていきたいです。

車のデータと人流のデータを組み合わせることも効果的だと考えています。例えば、夏休みなど学生が長期の休みの期間は、渋滞が緩和される傾向にあるなど、徒歩や自転車などの人流が、自動車が右左折をする際の滞留に影響を与えている可能性があると考えられます。このように人流と組み合わせることで、その地点における渋滞の要因が見えてくることもあると考えています。

また、事業者の方には、工事車両の出入りをピークの時間帯は避けていただく、生活道路を抜け道に使わないなど、共生していくための取り組みを進めていただいています。行政としても地域の情報をしっかりとキャッチして、あらかじめ手を打てるようにしていこうと考えています。そのためのPR活動など事前の対策にも力をいれていきます。

―本日はありがとうございました。

インタビュアー

井上 大輔

JCOM株式会社
井上 大輔

J:COMは通信や放送を主軸とする会社で、交通分析業務への取り組みは未知数な部分がありましたが、私自身は地域で暮らす一人として、熊本県の重要課題である渋滞解消に向けて、お手伝いできることはないかと考えていました。

本業務では、データの分析・効果検証に加え、パートナー登録制度のPRや効果検証動画の制作などに取り組みました。これにより、その内容を県民の皆さまへ分かりやすくお伝えするため、J:COMの強みを活用することにもつながりました。

※記載の内容は取材時(2026年4月)の情報です。